野依委員長 2011年は世界化学年です。その百年前の1911年、キュリー夫人がラジウムとポロニウムを発見した功績でノーベル化学賞を受賞しました。この一世紀の間に、化学においてめざましい発見や発明がなされ、その成果を活かして数々の優れた技術が生まれました。私たちの豊かな物質文明は多くの化学産業技術に支えられていますが、さらに20世紀における人類の平均寿命の伸長への貢献は特筆に値します。
 しかし、現在我々は人口爆発に端を発し、資源の枯渇、気候変動、環境劣化、貧困をはじめとするさまざまな地球規模の問題に直面しています。科学が人類の生存に果たすべき役割は何か。真理を追究する本質は不変ですが、科学と社会のかかわりは時代の宿命です。化学界、産業界も社会の求めに応じて、今一度あり方を見つめ直す必要があります。
  "Chemistry - our life, our future"化学は新たな価値を創り、未来社会を支えます。今世紀にいかなる国も決して一国では生き続けることはできません。卓越した科学技術は国際競争と国際協調の柱です。世界化学年を通じて、多くの若者たちが手を携え、豊かで輝ける未来社会が拓けることを祈念します。

2010年8月6日                   
世界化学年日本委員会委員長  野依良治      
(理化学研究所理事長、2001年ノーベル化学賞受賞者)